
LGBTのうちの「T」である「Trans gender(トランスジェンダー)」についてです。
「トランスジェンダー」とは一言で言うと「生まれた時の性別とは異なる性別で生きる人、または生きていこうとする人」のことです。
「男性が好きな、女性っぽい男性のことでしょ?」や「ニューハーフやオネエ、オナベって言われる人のことでしょ?」と思われた方もいるかもしれません。また、似た言葉に「性同一性障害(GID)」と言うものもあります。
トランスジェンダーは同性愛者や性同一性障害とどう違うのでしょうか?
このページでは「トランスジェンダー」の意味について説明し、混同されがちな他のセクシュアリティ(性のあり方)との違いについて書いていきます。また、自分がトランスジェンダーかもしれないと思った時には、どうすればいいのかについてもお話ししていきます。
トランスジェンダー(Trans gender)とは、「生まれた時の性別と、自分自身が心で感じている性別や生きていきたい性別が異なっている人」のことです。トランスジェンダーという言葉は、ラテン語で「反対側」「乗り越える」「変えて」といった意味を持つ「トランス」と、英語で「性」を表す「ジェンダー」を合わせて生まれたものです。。つまり、生まれたときの性別から、異なる性別へと移行して生きようとする人のこととも言えます。
(生まれた時の性別と自分が感じている性別が一致している人のことは「シスジェンダー」という)
例えば、男性として生まれたけれど女性として生きていきたい、または既に女性として生きているという人は「トランスジェンダー女性」と言います。
反対に、女性として生まれたけれど男性として生きていきたい、または既に男性として生きている人を「トランスジェンダー男性」と言います。ポイントは、生まれ持った性別ではなく、その人が望む性別が大切だということです。
このとき、
・男性から女性へと性別を移行する人をMTF(Male To Femaleの略、男性から女性)
・女性から男性へと性別を移行する人をFTM(Female To Maleの略、女性から男性)
と呼びます。
トランスジェンダーについて説明するとき、「心と身体の性別が違う人」というように表現されることが多いのですが、心と身体の性別というのはどういう意味なのかを以下で説明していきます。
まず、人の性の在り方(セクシュアリティ)を決めるポイントには以下の4つがあります。
文字通り、「からだの性別」のことです。生まれたときに医師によって判断された性別が身体的性別に当たります。
人の性別は、赤ちゃんとして生まれてきたときの外性器の形によって男性か女性どちらかに振り分けられます。一般的に、男性であればペニスがあったり、からだの中に精巣があったりします。女性であればヴァギナがあったり、子宮や卵巣がからだの中にあります。また、性染色体といって人の性別を決める染色体がXYの場合は男性、XXの場合は女性としてわけられています。
ですが、人によっては性器の形が男女どちらにも当てはまらないケースや、女性(男性)に見えるけれど実は身体の中に精巣(卵巣)があったというケースや、人の性別を決める遺伝子が含まれた染色体(性染色体)が一般的な男女の形でないケースもあります。
このように身体の性別の特徴が一般的な男女に当てはまらない人は、トランスジェンダーではなく、「性分化疾患」と呼ばれます。
これは、生まれた性別が男性であれ女性であれ関係なく、自らの性別を「自分がどう感じているか」と言うことです。心の中で「自分は女性である」「自分は男性である」などと、どのように認識しているかということで、「こころの性別」と呼ばれることも多いです。
この、性自認は「男性」と「女性」という2種類のどちらかの場合が多いですが、人によっては男女どちらにも当てはまらなかったり、揺らいでいたりするケースもあります。例えば、「中性(男女の中間である)」や「無性(男女どちらでもない)」、「両性(男女どちらでもある)」、「不定性(日によって変わる)」という人もいます。
他にも、どちらかといえば男性、どちらかといえば女性、揺らいでいる、などというように、男女二つだけではわけられない様々な感じ方をしている人もいます。性自認は本人に聞かない限り、周りが判断できるものではありません。
これは、簡単に言うと見た目の性別のことです。服装などの身につけているものや、仕草、言葉づかいなどが「男性らしい」のか「女性らしい」のかということです。性自認と性表現は一致している場合が多いのですが、必ずしもそうではない場合もあります。性自認と性表現が異なるケースを表したのが、次の例です。
・「性自認が男性」で「性表現が女性」
→「自分を男性だと認識しているけど、見た目には一般的に女性的と言われるものを好み、女性らしいと言われる仕草をしている」(オネエと呼ばれる人の中にも、このタイプは多くいます)
・「性自認が女性」で「性表現が中性」
→「自分を女性だと認識しているけど、見た目には中性的な服装をしている」
このように、性自認と性表現は必ずしも一致するわけではありません。
ただ、何を「男らしい」「女らしい」とするかは、その国や社会の状況によって違ってきます。(例えば、スコットランドでは男性がスカートのような「キルト」と呼ばれる服を着ていますが、これは勇猛果敢な証とされています。)
どの性別を好きになるか、ということです。恋愛対象や性的欲求がどの性別に向いているかということを表しています。この性的指向が異性に向いている人は「異性愛者」、同性に向いている人は「同性愛者」、男女どちらにも向いている人が「両性愛者」ということです。
好きになる性別は自分の意志や好みで選べるものではないため、単純にどちらに向いているかということのみを表すために「指向」という漢字が使われています。
中には、恋愛感情や性的欲求を持たない人(または、そういう感情が極端に少ない人)もいます。このような場合は「アセクシュアル」「Aセクシュアル」などと呼ばれます。
トランスジェンダーの場合は、①の身体的性別と②の性自認が違っているのです。
例えば、
・男の子として生まれたにも関わらず、小さい頃から自分のことを女の子だと感じていて、好んでいた遊びや服装も女の子のものだった。
・女の子として生まれたが、制服のスカートに対して嫌悪感があったり、胸が膨らんでくるのが苦痛だったりして、自分のことを女性だと思えない。
このように、生まれもった性別と自分が感じている性別が異なるため、生きづらさを感じてしまうことが多くあります。
ただ、中には性表現が異なっているだけの場合(女の子っぽい男の子や、ボーイッシュな女性など)もありますが、女性的(男性的)なものを好むことと、本人が感じている性別は関係ありません。
どこからがトランスジェンダーなのかというと、「その人自身が自らの性別をどのように感じていて、本当はどのように生きたいのか」が一番のポイントです。
「からだの性別」と「こころの性別」が食い違っていて苦しいと聞くと、「では、「こころの性別」を変えればいいのではないですか?」という人も中にはいますが、性自認を意図的に変えることは不可能です。
例えば、自分のことを男性(女性)だと思って生きている人に「では、今日から自分のことを女性(男性)だと思って生きてください」と言われても、数日は言われた性別のフリをして演じることは可能かもしれませんが、ずっとそのままで生きていくことはやはり難しいでしょう。
なので、トランスジェンダーは希望する性別の服装をしたり、性ホルモンの投与や身体を手術をしたりすることで心ではなく見た目を変化させて、望む性別で生きていくことを選択する人が多いのです。
ただ、トランスジェンダーの全てがホルモン投与や手術を希望するわけではありませんし、中には、からだの性別もこころの性別も同じだけれど、③の性表現を変えることで、生き方としてのトランスジェンダーを選んでいるという人もいます。
このように、トランスジェンダーにもいろいろなタイプの人がいて、その人が本当はどういう生き方を望んでいるのかが一番大切なのです。
同性愛者(レズビアン・ゲイ)と、トランスジェンダーは異なります。ですが、トランスジェンダーにも同性愛者はいます。
よく見られる間違いで、「男性が男性を好きになるということは、心が女性なんでしょ」というものがありますが、これは同性愛とトランスジェンダーを混ぜて考えている状態です。どの性別を好きになるかという「性的指向」と、自分の性別をどう感じるかという「性自認」は切り離して考える必要があります。
トランスジェンダーの場合は、①の「身体的性別(からだの性別)」と生きていきたい性別が異なっている人のことなので、好きになる性別が同性であるか異性であるかは関係ありません。
同性愛者とは④の「性的指向(せいてきしこう)」が同性に向いている人のことを指しますが、その人から見て相手が異性であるか同性であるかは「性自認」によって違います。自分を男性だと感じている人が男性を好きになった場合は、同性愛者(この場合はゲイ)です。反対に、自分は女性だと感じている人が男性を好きになった場合は、異性愛者です。
同性愛者が全てトランスジェンダーではありませんが、トランスジェンダーの中にも同性愛者はいます。例えば、
・男性として生まれたけれど、自分のことを女性と感じていて男性が好き
→トランスジェンダーで異性愛者(女性として男性が好き)
・男性として生まれたけれど、自分のことを女性と感じていて女性が好き
→トランスジェンダーで同性愛者(女性として女性が好きなのでレズビアン)
というようになります。
このように、自分の感じている性別と、好きになる相手の性別によって同性愛かどうかが決まるということです。
なので、トランスジェンダーの中にも同性愛者はいるけれど、同性愛者がみんなトランスジェンダーではありませんので、イコールではないということになるのです。
日本では、トランスジェンダーの他にも「性同一性障害(GID=Gender Identity Disorder)」という言葉が存在します。トランスジェンダーは広い意味で性別を越えて生きていく人たちを指した言葉なのですが、「性同一性障害」は生まれもった性別への違和感をもとに病院を受診したときに医師からおりる「診断名」のことです。
トランスジェンダーの中でも、からだの性別と自分の感じている性別が異なっていて、医療のサポート(カウンセリング、ホルモン投与、手術など)を受けることを希望し、専門の病院でカウンセリングや様々な検査を受けて病院の医師が診断した場合のみが、性同一性障害だということになります。
国際的には性別への違和感を精神疾患だとするのはおかしいのではないかという流れも広がってきていますが、日本では身体や見かけを変えて生きていきたいと望んでいる人たちに適切な医療ケアを行うために、「性同一性障害」という診断をしているということです。
ただし、全ての人が医療によるケアを望んでいるわけではありません。
医療を必要とせずに身体の性は変えないまま生きるトランスジェンダーもいますし、何らかの事情で病院に通えなかったり、治療を受けられなかったりするトランスジェンダーもいます。
性同一性障害はあくまで専門の医師によって診断を受けた人につく「診断名」なので、トランスジェンダーの全ての人が性同一性障害だとは限らないのです。
また、トランスジェンダーや性同一性障害の人たちのことを指して、オネエやニューハーフ、おかまやおなべだという人がいますが、これも間違いです。オネエは性表現が女性的な男性のことであり、ニューハーフは職業名です。
そして、おかま、おなべという言葉は、バカにしたり見下したりするときに使われる場合が多いので、相手をイヤな気持ちにさせてしまいます。
ただ、中には、本人自らがあえてオネエやおかまだと言っているケースもありますが、イヤな思いをしたり傷ついたりする人の方が多いので、気をつける必要があります。
この記事を読んでいる人の中には、「もしかしたら自分もトランスジェンダーではないか」と思って、悩みながらたどり着いてくれた人もいるかもしれません。
性別に対して何らかの違和感に気付いたり、異なる性別で生きたいと望んでいたりする場合に、初めはショックを受け、どうすれば良いのかと悩むトランスジェンダーは多くいます。
「性同一性障害」や「トランスジェンダー」という言葉を知って、今まで言い表せなかったモヤモヤが言葉になってホッとした反面、「人にバカにされるかもしれない」「隠して生きるしかない」と一人で落ち込んでしまうこともあります。
ただ、そのような時に助けてくれるのは「正しい知識」と「受け入れてくれる人や同じような仲間の存在」です。
「正しい知識」は自分を知ることを助けてくれます。「受け入れてくれる人や同じような仲間」は「自分は一人ではない」「このままの自分でいいんだ」と思わせてくれます。
はじめのうちは受け入れてくれる人や仲間を得るのは難しいと思うかもしれません。「誰にも言えない」とうちに秘めてしまうことも多くあります。
なので、誰かに話す勇気が出ないときは、まずは知識をつけることを始めると良いです。
本を読んだりネットで調べたりするうちに「自分はこれに当てはまるかも!」や「この部分は私の状態と似ているな」など、少しずつ自分のことがわかってきます。
その中で、もし、インターネット上で信頼できそうなトランスジェンダーの方を見つけたら、その人に連絡をとってみるのも良い方法です。対面でなくても、自分の状況を誰かに話すことで頭の中が整理されていったり、こんな風に生きる方法もあるのか、と知ることもできます。
ただ、人によって生き方や考え方は様々ですので、誰か一人をお手本にして必ずその人のように生きていかなければいけないということはありません。あくまで、自分を知り、これからどのように生きていくのかを考えるためのヒントだと思ってください。
ネットで知らない人と繋がるのは怖いという人は、無料で電話やメール相談できる場所もあるので、このようなところを頼るのも1つの方法です。どうしても苦しい時には、一人で悩まずに誰かの力を頼ってください。あなたを助けてくれる人は絶対にいます。
トランスジェンダーであることで、生き方に迷ったり悩んだりすることもあります。
ですが、トランスジェンダーであったとしても、性別の問題を乗り越えて社会の中で安定して暮らしているケースも多くありますし、幸せに生きている人はたくさんいます。
例えば、
・周りと相談を重ね、治療を始める前から希望する性別で進学や就職をした
・性同一性障害の診断を受けてホルモン投与や手術をし、戸籍の性別を変更して愛する人と結婚した
・養子縁組や不妊治療を使って、パートナーとの間に子どもを授かった
・昔は生まれたときの性別で働いていたけれど、今は同じ会社で望む性別で仕事をしている
・身体は変えていないし、周りにも話していないが自分らしく生きている
という人もいます。これらは実際のケースです。
このように、さまざまな人がそれぞれの幸せを形にして生きている例がいっぱいあります。
トランスジェンダーでも、そうでなくても、「自分がどのように生きていきたいのか」「どうすればそれを実現できるのか」と考えることを諦めない限りは、いつか必ず道が見えてきます。トランスジェンダーであっても、幸せな未来は実現できるのです。
・トランスジェンダーとは「身体的な性別と生きようとする性別が異なる人」のこと
・「自分の性別をどのように感じているか」と「好きになる相手の性別」は関係ない
・性同一性障害(GID)は医師から受ける診断名
・自分もそうかもしれないと悩んだら、一人で悩まずに調べたり相談したりする
・トランスジェンダーでも幸せに生きることができる